
|
結局ジャックはスライムから逃げ回るだけで力尽きた。
「まさかこんな結果になるとはのう・・・」 この結果は訓練師範代にとって想像だにしないものであった。 確かに何も知らない少年の身でいきなりスライムに立ち向かうというのは若干無理がある。 だが父がナイトとして活躍していたジャックはモンスターの事を ある程度は知っていると思っていた。 知識さえあればMAO島のスライムなど全く問題にならないはずなのだ。 「こやつの育成計画を考え直さねばならんのう・・・」 訓練師範代は訓練所のそばにある井戸から水を汲み 力尽きて気絶してしまっているジャックに水をいっきに浴びせた。 「いつまでノビとるか!!」 条件反射のごとくジャックは立ち上がったが、さすがに体力が尽きておりフラフラしている。 「ジャックよ、どうやらお主は知識が足りぬようじゃ」 「知識?」 ジャックはよくわからないといった表情で小首をかしげた。 それに対して訓練師範代は言葉を続ける。 「そうじゃ、己を知り敵を知れば百戦危うからずというじゃろう。何事をやるにしても知識というものは絶対に必要じゃ」 そう語る訓練師範代にジャックはうなずく。 「例えばさっきお主が戦ったスライムじゃが、油断しなければお主の今の力でもなんら問題なく倒せるモンスターじゃよ」 これにはさすがにジャックは驚きを隠せない。 「で、でもスライムはとても恐ろしいモンスターだって本に書いてましたよ」 ジャックは自分が盗賊を目指すきっかけとなった本に書いてあった事を訓練師範代に言ってみた。 スライムは非常に恐ろしいモンスターで熟練の冒険者でも命を落とすことがあり、出会った場合は注意を払っても払いすぎる事は無い・・・と。 それを聞いた訓練師範代は顔をしかめながら言った。 「そんなモンスターを子供に戦わせたら犯罪じゃよ。ワシはそんな非道な事はせんわい」 ジャックも確かにそうかもしれないと思った。 だが、あの時は考える余裕など無かったのだ。 人間追い詰められてしまうと思考が停止してしまうものだ。 訓練師範代はなおも言葉を続けた。 「ジャック、お主が本で見たというのは恐らくダークスライムの事じゃ。あれに遭遇した場合は確かに危険じゃがの・・・ だがMAO島におるスライムは訓練用にここで育成されたもので危険は皆無に近いわい」 ジャックは訓練師範代の言葉にうなずき真剣に聞いた。 「先ほども言ったが、こういった知識を身に付ければ戦うときに焦りを生まずにすむ。 焦りは判断を鈍らせ、取り返しのつかぬ失敗につながる。 知識を身につけ状況判断を的確にする。これはどんな職業に進むにしろ大切な事じゃ」 訓練師範代はジャックにこの後も多くの事を伝えた。 MAO島の訓練所は学びに来る人は少ない。 これは島が平和な為でそれ自体は喜ばしいことだが、前途有望の若者を育てる機会が少ないのも寂しい。 普段教えるのは食料を仕入れるための軽い護身術程度である。それだけにジャックに対する熱の入れようは凄かった。 そしてジャックも真剣に聞き学び、たまに訪れる人とも一緒に訓練も重ね、 1週間という時が瞬く間に過ぎた。 訓練所の前には訓練師範代だけでなく、共に学び訓練をした人たちが皆やってきていた。 「ジャック、お主には一通り必要最低限の知識は授けた。 あとは己で見聞きし経験を重ねていくがいい」 訓練師範代はジャックを見据え厳粛に言った。 旅立ちを前に心が高ぶる。 「師範代お世話になりました。 師範代の名を汚さぬよう頑張っていきます」 二人はその後は何も語らない。 だが目はお互いを見つめあう。 時間にすればわずか数秒だったが、ジャックは多くの事を師範代が目で訴えているのを感じた。 今の自分では全てを理解することは出来ない。 だがこの後の旅で多くの事を学び理解できるようになるはず。 ジャックは最後に一礼をし、訓練所をあとにした。 そんなジャックに後方から多くの人から声援が飛ぶ。 ジャックの旅はこれからはじまるのだ・・・ 次回へ続く ![]() (7)前へ / (9)次へ |
