ジャックのMAO島大脱出!
‡第6話‡
『死の臭い』
巨大イノシシとの戦いで九死に一生を得て撤退に成功したジャックは、
疲労と痛みに耐えながらも旅立ちの町へと帰還した。
情報の大切さをその身をもって覚えた彼は宿屋に向かう。
「とにかく休ませてほしい」
そう言うジャックに対し、主は客である彼の状態に驚き、
「知り合いの医者を呼びますから!」
一目散に飛び出していくのだった。
通常宿屋にはお抱えの医者がおり、
冒険者達が怪我をした場合報酬を受け取り回復してくれる。
この慣習は古くから行われており、
ここの主もそれに倣っているのだ。
ジャックも医者とその助手の手厚い治療を受け傷は癒えた。
結構な金額を請求されたが、ここでごねる様な冒険者はいない。
そんな事をすれば瞬く間に世界中の宿屋に知れ渡り、
いざという時に助けてもらえなくなるからだ。
「ありがとうございました」
ジャックも出費は痛かったが、一度立ち上がり素直に礼を言い代金を渡した。
老医師は「うむ」と頷き助手を連れて部屋から出て行った。
それを見届けてからジャックは「はぁ〜」と大きくため息をつきながら
ベットにまた倒れこんだ。
「よく生き残れたもんだよな〜」
目を閉じればまだあの巨大なイノシシの突進してくる姿が鮮明に思い出せる。
身震いする身体を自分で強く抱きしめる。
『死の臭い』
師匠たる師範代はそう言っていた。
「冒険者にとって危険は常に隣り合わせじゃ。
こうして話をしておる間にも多くの冒険者が傷を負っておる。
そしてその中には死ぬ者たちもおる。
生き残る者と死ぬ者、何がそれを分けるのか……わかるか?」
師匠の問いに対してジャックは「運ではないか」と答える。
「まあ、大部分の一般人は運と考えるじゃろう。
じゃが熟練の優秀な冒険者たちならばこう答えるであろう」
『死の臭い』
そう言った師匠の表情が険しくなる。
「これを嗅ぎ分けられるかが差に現れるのじゃ」
「慎重に謙虚にってことですか?」
そう言うジャックに「そうではない」と言い師匠は続ける。
「もちろん慎重に行動することは大切じゃ。
これは冒険者ならば必ず理解していることじゃ」
時には大胆にいかねばならぬ時があるのじゃがな。
と付け加えさらに話を続ける。
「ジャックにはまだわからぬであろうが、
物事には『機』というものが存在する。
攻める時なのか、守る時なのか、はたまた撤退をするべきなのか。
今行動するべきか、それとも動かないべきか……。
言い出すと止まらぬくらいある。」
師匠は一呼吸を置き、ジャックに対して「わかるか?」と聞くが、
ジャックには答えられなかった。
それに対して師匠は「当然じゃ」と言う。
「優秀な冒険者は死に対して敏感じゃ。
それは何故か?
それは、今までに多くの死に触れているからじゃ。
倒したモンスターの死はもちろんじゃが、
共に旅をした仲間や、知人の死に触れる事もある。
伝え聞く話は事欠かぬ。
だからこそ、先人たちの言葉に耳を傾け、仲間や知人、町の人々からも情報を集める。
そうして経験を積むと、戦いの技量と共に
『機』を敏感に感じ取り、死の臭いを嗅ぎ分けれるようになる。
普段は特に感じることはないかもしれん。
じゃが、自分よりも強い敵や未知の敵と遭遇した時、或いは討伐に参加した時、
それは如実に現れるであろう。
今は理解できぬであろう。こういった話を聞いたと覚えておればよい。
普段から心がけておれば自ずと理解する時が来るじゃろう。
じゃが、それを忘れた時、必ず手痛いしっぺ返しを食らうじゃろう……」
結局あの時『死の臭い』の具体的な答えはわからなかったし、
師匠も言ってはくれなかった。
だが、今ならば少し理解できる。
『死の臭い』とは言葉にはできない類のものだ。
いや、それは正しい表現ではない。
運や洞察力、勘、今までの経験など様々な要素が合わさって感じるものなのだ。
ジャックはそんな事を考えていると今度は先程以上のため息を吐いた。
「今回、情報を知っていればこんな目には遭っていないもんなぁ〜」
師匠の言うとおり手痛い洗礼を受けた。
生き残れたのは運がたまたま良かっただけの事。
それを再度実感する。
「親父はどうだったのだろうか……」
ジャックは討伐で負傷し引退を余儀なくされた父を思い出す。
そして想像する、自分のように無鉄砲に突っ込む父を……。
ありえなかった。
常に自らには厳しい父だった。
「多分、親父は嗅ぎ分けて生き残ったんだろうなぁ〜」
ジャックは初めて父を冒険者としての壁と感じた。
ただ憧れだけで安易に盗賊を目指そうとし、
反対されるのが怖くて詳しい話を聞こうともしなかった。
何もわかっていなかった自分に無償に腹が立つ。
「今回の件が片付いたら一度家に帰って話を聞いてみよう」
そんな事を考えていると緊張から解き放たれたのか
一気に疲労が押し寄せ眠気が襲ってくる。
「明日は朝から情報収集だ」
そう心に決めジャックは眠るのだった。
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